USGAは、教育こそがゴルフの普及につながると信じている

ジョーダン・ブース博士(Jordan Booth、USGAコース・コンサルティング・サービス・ディレクター)

パインハースト・ナンバー10で開催されたファースト・グリーン・イベントでは、グリーンキーパー育成プログラム(GAP)の受講者たちが、現代のコースメンテナンスに使われている最新の技術やテクニックを生徒たちに紹介した

AIの普及は各方面で話題を提供していますが、その背景となる教育場面で注目を集めているのがSTEM(ステム)教育です。STEM教育とは、「Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)and Mathematics(数学)」の教育分野を総称する用語で、2000年代に米国で始まった教育モデルですが、日本でも文部科学省が普及推進をしています。ところで、なぜゴルフがと思われるかもしれませんが、米国ゴルフ協会(USGA)やグリーンキーパーの団体であるGCSAAが、このSTEM教育に積極的に取り組んでいます。皆さんがラウンドするゴルフコースの管理ではSTEMに関する知識が不可欠です。コース管理の現場を教材にゴルフコースが所在する地域の学校と提携してSTEM教育プログラムが各地のゴルフコースで取り組まれています。今回紹介するファースト・グリーン・イベント※1は、USGAのグリーンキーパー育成プログラム(GAP)と連動した取り組みの一例です。子供たちを対象にしたプログラムの中にはゴルフプレーに触れる機会も設けられており、子供のころから自然にゴルフに触れる機会を設けることでゴルフの普及につなげようという試みです。日本でも始まってほしい業界の取り組みです。

 

トム・ドーク設計で知られる米国ノースカロライナ州のパインハースト・ナンバー10で開催されたGCSAA主催のファースト・グリーン・イベントは、グリーンキーパー育成プログラム(GAP)を受講している学生たちが参加して開催されました。このイベントは、GAPの第1期生のための、彼ら/彼女たちの学習内容の確認であるキャップストーン・プロジェクトの一環で、ゴルフ界の将来を担う子供たちを対象に、ゴルフコースメンテナンスにおける科学、技術、工学、数学といった教育に焦点を当てた構成で行われました。

このプログラムは、GCSAAのメンバーであるパインハースト・リゾートのコース管理者、ケビン・ロビンソン(CGCS)、ダニエル・ウィゼナント、ジャック・クロスがこのイベントを主催し、GAPの学生たちは、パインハースト・ナンバー10の4番ホールと5番ホールに四つのワークショップを設定し、ここでの体験を通してコース管理に必要なスキルと背景となる論理的な考え方を若者たちに体験してもらうという内容です。設定されたワークショップは以下のような内容です。

1.パッティンググリーンのパフォーマンス測定基準:子供たちはGS3ボール※2を使用して、DEACONモバイルアプリ(USGAが開発したコース管理専用モバイル)やUSGAスティンプメーターなどのテクノロジーを活用し、パッティンググリーンの特性を測定する。

2.自生地の管理:持続可能な雑草対策と在来植物種の繁殖についてのディスカッションを行い、実際に芝草管理を体験する。

3.バンカーのメンテナンス:ここでは、まずバンカーの構造とその目的と機能の概要が説明され、その後、レーキのデモンストレーションが行われた。

4.水管理:GAPの学生たちは、携帯型土壌水分計を使って、グリーン上の乾燥した部分と湿った部分を識別し、手撒き散水の適切なテクニックを実演。その後、子供たちが水分測定を行い、手撒き散水のテクニックを練習する。

GAPの学生たちは今年のプログラムで学んだことを話し、プログラムに参加した生徒たちは様々なコースメンテナンスの道具を見たり試したりした

GAPの学生たちがこの1年間で学んだゴルフコースメンテナンスの実践について話し、若い将来のゴルファーたちが聞いている姿を見ることは、とてもエキサイティングなことです。ファースト・グリーンでは、2023年にこのようなイベントを90回以上開催しており、コース管理者とそのゴルフコースにとって、若い人たちにゴルフコースのメンテナンスの多くの興味深い側面を知ってもらう素晴らしい取り組みとなっています。同じ取り組みが英国でもBIGGA(英国および国際グリーンキーパー協会)が主催して、GCSAAとの共同イベントとして行われることが決まっています。

 

注記:※1GCSAAのファースト・グリーン・プログラムは、ゴルフコースを生きた実験室として使用する科学、技術、工学、数学(STEM)と環境についてのアウトリーチプログラムです。地域の生徒たちは、野生生物の生息地について知り、土壌科学、自然環境の持続可能性、数学、水の保全、水質、キャリアの探求などに関するレッスンを含む実践的な屋外学習に参加しています。

ファースト・グリーン・プログラムは、全米ゴルフコース管理者協会(GCSAA)の慈善団体であるGCSAA財団のプログラムです。

※2GS3ボールは、USGAが開発したゴルフ管理専用ツールで、ゴルフコースのグリーンの速度、硬さ、滑らかさなどを一つのデバイスで計算することができます。GS3は、標準的なゴルフボールと同じサイズと重さの充電式スマートボールで、スーパーインテンデントが使用できる、正確で測定可能な、初めての農学的ベンチマークを提供しています。