
The R&A公式サイトより
2027年に開催される第155回全英オープンに向け、スコットランドのセントアンドリュース・オールドコースで改修と復元工事が始まりました。
世界最古のゴルフコースとして知られるオールドコースは、“ゴルフの聖地”とも呼ばれ、歴史と格式を象徴する場所です。今回の改修は、単なる距離延長ではなく、戦略性の再構築と伝統的特徴の復元を目的とした、非常に興味深い内容となっています。
R&Aと、コースを所有する法定公共団体セントアンドリュース・リンクス・トラストは、2022年の第150回大会終了後にコースの見直しを行い、改修計画を発表しました。設計を担当するのは、リンクスゴルフの専門家として知られるマッケンジー&エバート社です。同社はこれまでも全英オープンに向けた設計変更を手がけ、歴史と現代のプレースタイルを融合させる手腕に定評があります。
R&AのCEOマーク・ダーボン氏はこう語っています。「オールドコースは決して歩みを止めることはありません。その偉大さは、ゴルフの本質を維持しながらも常に変化し続けるところにあります」
この言葉が示すように、伝統を守ることは過去に固執することではなく、時代に合わせて進化することです。今回の改修は、その理念を体現するものと言えるでしょう。
改修のポイント:6ホールの延長と戦略性の復元
今回の工事では、5番・6番・7番・10番・11番・16番ホールの距離が延長され、12番ホールのみ若干短縮されます。
総距離は132ヤード増加し、全長7,445ヤードとなります。新しいチャンピオンシップティーが複数設置され、現代の飛距離に対応したレイアウトへと生まれ変わります。
バンカー配置の変更も注目点です。
2番ホールでは、右側にあった二つのドライビングレンジバンカーが左奥に移動。6番と10番には、トップアスリートのドライバー飛距離に対応した新バンカーが追加されます。
9番ホールでは、「ボーズバンカー(Boase’s Bunker)」を含む右側のアプローチバンカー群がプレーラインに沿うように延長され、形状もより大きく、丸みの少ない伝統的スタイルへと復元されます。

ST ANDREWS LINKSホームページより
とりわけ注目されるのは16番ホールの改修です。歴史的に重要なバンカー群「プリンシパルズ・ノーズ」や「ディーコン・サイム」の左側に、かつてのプレールートが復元されます。さらにフェアウェイ左側には二つの新バンカーが追加され、プレーヤーはラフを避けつつも直感に反するルートを選択する戦略性が求められます。
また、17番ホールの「ロードホール・バンカー」では、砂の飛散を抑えるための修復が行われます。
同時に、灌漑システムの更新も進められており、芝の管理効率向上が期待されます。
設計者の視点:歴史への敬意と現代への対応
マッケンジー&エバート社は、過去の大会記録や地形図を丹念に調査し、「私たちはコースの戦略的難易度を一部復活させたいと考えました。同時に、長年の改修で失われた特徴の一部を取り戻したいという思いもありました。それが今回の変更を選んだ理由です」と、オールドコースの“進化の歴史”を踏まえた上で改修案を作成したと述べています。
同社は、1900年代初頭に60以上のバンカーが追加された事例や、2000年および2005年大会で350ヤード以上延長された経緯を参考に、今回の変更をその流れの延長線上に位置づけています。
同社のアプローチは、単なる技術的調整ではなく、“Spirit of St Andrews”を守るための設計思想に基づいています。フェアウェイの拡張やバンカー再配置は、プレーヤーに新たな選択とリスクを与えると同時に、かつてのプレールートを再び浮かび上がらせる試みでもあります。
アマチュアゴルファーへのメッセージ
オールドコースでのプレーは、すべてのゴルファーにとって憧れの体験でしょう。
Golf Course Architecture誌は、今回の改修はプロやトップアスリートの大会を念頭に置いたものですが、一般ゴルファーのプレー体験にも影響を与える可能性があります。フェアウェイの形状やバンカー位置の変化により、ショット選択の幅が広がり、より戦略的なラウンドが求められるようになると評しています。
また、灌漑システムのアップグレードにより、コースコンディションの安定化が進む見込みです。地元のゴルファーや観光客にとっても、より快適で高品質なプレー環境が整うことでしょう。
オールドコースは、何世代にもわたり形を変えながらも、ゴルフの本質を守り続けてきました。今回の改修もまた、伝統を尊重しながら現代ゴルフに対応する進化の一歩です。
アマチュアゴルファーにとっても、歴史と挑戦が共存するこのコースでのプレーは、かけがえのない体験となるはずです。
2年後のThe OPENが待ち遠しくなりますね。
