休眠した芝に思いやりを

コーリー・アイソム(Cory Isom、USGA西部地区農学シニアコンサルタント)

CAP:休眠中の芝は枯れているように見えるかもしれませんが、実は生きています。植物はより良い生育条件になるのを待っているだけです。休眠中の芝生面はゴルフに最適ですが、休眠中の芝は摩耗や損傷から回復できないために慎重に管理する必要があります。(USGA/ビル・ホーンスタイン)

 

落葉樹が秋に葉を落とすのと同じように、環境条件が変化することで芝草が長期間休眠状態になることがあります。この時、芝草は眠っているような状態で、芝草は死んでいるわけではなく、通常は春を迎え生育条件が改善されることで回復します。芝が休眠状態になる理由と、休眠状態にある芝がプレーにどのように関係するのか、ゴルフコースが休眠期間に間にどのように芝を管理するかについて、以下の説明をお読みください。

なぜ休眠は起こるのか?

休眠状態は、環境条件が不利なときに植物が生き残るためのメカニズムです。芝生は、日照時間が短くなったり、気温の低下する、水分が不足するといったことにより、重要な成長機能の多くは極端に働きが遅くなったり、完全に停止します。通常は、芝生は緑色が失われ、葉はもろくなり、ゴルファーやカートの通行により芝生の葉が落ちることがあります。北米の気候は変動が激しいため、ほぼすべてのゴルフコースの芝生は、1年のうちのある時点で生育が不利になる環境条件になります。冬の休眠は米国全土で一般的な現象ですが、急激な乾燥による休眠は、暖かい気候条件のときにも芝生に影響を及ぼす可能性があります。

休眠している芝生は表面が枯れているように見えますが、地下の根などの組織は、ゆっくりとした遅いペースですが活動しています。成長に適した条件が整うと、芝は回復し、緑色の正常な状態に戻り始めます。

休眠はゴルファーにとって何を意味するのでしょうか

休眠中の芝生でプレーしても通常は問題ありません。実際、休眠中の芝生は、これまでに経験したことのない最高のプレー条件のいくつかを提供してくれます。休眠している芝は、葉の抵抗が少ないため、ライはタイトになり、ボールスピードが速くなります。また、休眠中の芝は水をあまり必要としないため、非常に硬いコンディションになっています。多くのコースでは、休眠中のグリーンが硬くなりすぎてプレーしにくくなることがないように対策を講じています。

ただし、休眠中の芝では、摩耗や損傷からの回復が遅くなり、時には回復しない可能性があることを知っておくことは重要です。ゴルファーなどの通行による損傷やボールマーク、ディボットは回復しないまま休眠期間中ずっと残ります。ゴルフコースでは、休眠中の損傷を最小限に抑えるために、カートの利用を制限したり、ティーマーカーを通常とは異なる場所に移動したり、ゴルファーに一部のティーでマットから打たせたりすることがあります。休眠中の損傷を最小限に抑えるには、カートや方向標識に従い、練習スイングではディボットをとらず、常にボールマークを修復する必要があります。

芝が休眠中または成長が非常に遅い場合の対処方法は、各ゴルフコースによって異なりますが、プレー制限については、必ずゴルフショップに確認してください。

Reprinted with permission of USGA Green Section

夏季に、休眠限界を超えるとグリーンが「溶ける」

ここからは日本の話です。今年の夏、いくつかのゴルフ場のグリーンでベントグラス(寒冷地型芝草)が「溶けた」と表現される現象が発生しました。この状況について解説します。

1.「芝が溶ける」とは

グリーンキーパーさんたちが「芝が溶ける」と表現しますが、高温や湿気によるストレスから芝草が激しいダメージを受けて、枯死する現象を指します。コウライやノシバといった暖地型の芝草は活性が上がりますが、ベントグラスなどの寒地型の芝草は逆に活性が低下します。この時の状態は休眠状態と同じです。この状態を超えると、見た目には芝草が茶色く変色し、腐敗したように見えることからこのように表現されます。2024年の夏は、寒地型芝草で、この休眠状態を超える事態が起きていました。

2.ベントグラスの特徴と高温ストレス

(1)ベントグラスの特性

ベントグラスなどの寒冷地型芝草は寒冷な気候に適しており、特に涼しい気温(15~24℃)で最適に成長します。高温に対する耐性が弱く、 気温が25℃を超えると成長が抑制され、30℃以上では深刻なダメージを受けます。

(2)高温ストレスの影響

- 光合成機能の低下:高温により光合成が抑制され、エネルギー生成が低下します。

- 呼吸の増加:呼吸速度が上昇し、蓄えたエネルギーが急速に消費されます。

- 水分蒸散の増加:高温と高湿度の環境では水分の蒸散が増加し、芝草は乾燥ストレスにさらされます。

芝の体力が低下しますから、様々な病気に感染、発症する可能性が高くなります。詳しい病名などは省略しますが、危険な状態になります。

3.ベントの芝はなぜ「溶ける」

グリーンの芝が「溶ける」原因に高温がまず挙げられますが、なぜ高温になると溶けるのか? 実は光合成が関係しています。光合成は、植物(芝)が光エネルギーを利用して二酸化炭素(CO2)と水(H2O)から有機物(主にグルコース)を生成するプロセスです。このプロセスと呼吸(O2の吸収)に障害が起きたわけです。2024年の夏のように異常な高温が続くと重要になるのが水管理です。暑いからたくさん散水すれば良いわけではありません。過剰な灌水は土壌中の酸素供給を妨げられ、通気性が悪化することで根の呼吸が妨げられ、弱ります。病害を助長することになります。

グリーンキーパーは、こうした芝の状態を理解し、適切な水管理、肥培管理、病害予防、土壌改善でこれらの被害を軽減するためにご苦労されています。そして、日本のコース管理は、気候変動を踏まえた新しい管理手法を導入する必要があるという指摘がされています。