ゴルフ礼賛 コンシード、パットの歴史の「イイね」

2023年7月25日|ニュージャージー州リバティーコーナー(USGAゴルフ殿堂)

マイケル・トロステルとビクトリア・ネンノ(Michael Trostel and Victoria Nenno)

 

 

CAP:コンシードは、ゴルフゲームの歴史の中で長く行われてきた慣習です(USGA/ Chris Keane)

 

今回はコンシードに関するUSGAの記事の紹介です。全米ジュニアアマチュア選手権の開催週にアップされた記事です。こういう機会を通じて正しいゴルフ知識の普及を促進しているのでしょう。ところで、個人的な話で申し訳ありませんが、ゴルフを始めて早々にOKパットは教えられましたが、コンシードという言葉はずいぶん時間が経ってから知りました。そして、ストロークプレーにコンシードはないとは教えてくれなかった。ルール上はマッチプレーでしか認められていないことはご存じですよね。日常的なラウンドでのOKパットは慣習として認められている、というわけです。

ところで、このコンシードにも歴史がありますよという内容です。知っていると良いことがあるかもしれませんよ。

コンシードは、週末に仲間とプレーするレクリエーションゴルファーや全米選手権でプレーするトップアマチュアゴルファーにとって一般的な慣習です。これはプレーのペースを速くするのに役立ち、相手がほぼ確実なパットに対する礼儀と考えられています。

コンシードという言葉自体は、1909年のゴルフ規則で初めて言及されましたが、興味深いことに、当時のUSGAはこれに強く反対していました。マッチプレー競技の特別規則の項には、「ゴルフ規則委員会は、プレーヤーは対戦相手にパットを譲らない(コンシードしない)」と、1933年までのルールブックに書かれていました。

1952年まで存在した「スタイミー・ルール」

(関連記事:https://www.usga.org/articles/2016/07/rules-throwback–tough-putt–try-being-stymied.html参照)

を回避する方法としてありました。1920年9月1日、USGAはスタイミー(stymie=邪魔、打者の球とカップの間に他のプレーヤーの球がある状態)になったプレーヤー(打者)が相手の次のパットを認める規定を追加し、1921年のゴルフ規則で採用されました。“相手がプレーヤーのボールに対しスタイミーな位置にボールをつけた場合、プレーヤーは相手のボールを取り除くことができる。その後、相手は次のストロークでホールインしたとみなされる“。

その10年以上前の1909年12月号のUSGA Golf Bulletin(会報)には、パットの譲歩に関する二つの記事が掲載されています。南部ゴルフ協会の会長であるホーレス・F・スミスは、パットを譲ることはスポーツマンシップを示そうとするゴルファーの間で新しく人気が出てきたと書いています:

「(新しい)慣習は、熱狂的なゴルファー、フェアプレーと対戦相手に対する寛大で礼儀正しい騎士道精神にあふれた若者の間で、このような譲歩に好意的な感情を生み出した」

また、H.S.C.エベラードは、「ゴルファーたちはこの習慣に慣れ親しむようになり、信じられないことに礼儀が守られていない」と付け加えています:

「短いパットをホールアウトするよう促されると、ひどく気分を害する人がいます。“真剣勝負のゴルフ”では、“早く打ちたまえ、わが好敵手(Putt it out, mine enemie)”と礼儀正しく答えるべきです」

1920年代には、相手のパットを認めるかどうかは大西洋の両岸でまだ熱い議論になっていました。ゴルフ・イラストレイテッド誌の1927年7月号で、ウィリアム・ヘンリー・ビアーズは、この慣習がゲームに導入されたのは「気前のいいイギリス人ゴルファー」のせいだと非難し、練習を重ねたプレーヤーを裏切るものだと主張し、この話題に関するイギリスとアメリカの意見の相違を話題にしました。

「アメリカのゴルファーは、すべての試合でホールアウトすると批判されました。このため、アメリカ人プレーヤーは『スコアをつけるのが熱烈に好き』であり、ホールアウトすることによって後方のプレーヤーの進行を遅らせていると非難されてきました。好きなときに自分のボールを拾い上げたり、相手のボールをホール(カップ)から遠ざけてパットを決めたりする相手に、パッティング練習の成果の大部分を奪われていいほど余裕のあるパッティングの上手なゴルフプレーヤーは、今の世界にはいない」と。

英国の作家で1922年のウォーカーカップのGB&Iチームとして参加したバーナード・ダーウィン※1は違う意見を持っていました。ダーウィンは「試合に影響しないパットを打ちホールアウトし、ただ個人的な満足のためにホールアウトするのは“はっきり言って退屈だ”」と主張しました。ダーウィンによれば、「アメリカ人は個人のスコアをつけることにこだわる。カードに小さな数字を書き込むことにこだわるのは、時間の無駄であるだけでなく、マッチプレーの基本原則であるスポーツ精神に反する」としています。

ゴルフ・イラストレイテッド誌のライター、ジョージ・トレバーはダーウィンの意見に激しく反対した一人です。彼は、必ずホールアウトするというアメリカの慣習は、アメリカ文化に不可欠な価値観の結果であるとし、こう書いています:

「個人的なスコアを保持するというアメリカ人の主張は、基本的に健全であり、精神的にも満足できるものである。それは、私たちの国のゴルフの進歩の基礎となる礎石であり、ずさんな習慣ではなく、プレーの正確さを追求するものである。アメリカ人は、やることに価値を見いだせることは何でも、うまくやる意味があると感じている。パットを終えてホールアウトすることは自信を生み、男のゲームに最終的なスタンプを押す。ホールアウトしないことは、ずさんな精神を養うことになる」

彼は記事の最後に、マッチプレーにおけるホールアウトの重要性と相手のパットを譲る(コンシード)かどうかを決める時にプレーヤーが直面する悩ましい話題についても紹介しています:

「3フット(3 feet:約90㎝)の譲歩(コンシード)を拒否することは、スポーツマンシップに反する行為になるという、そのようなデリケートな判断を競技者に負わせるのは正しいとは思えない。繊細なゴルファーは、スポーツマンシップに欠けると非難されることを恐れる。自分のスポーツマンシップを疑われるくらいなら、ミスパットを認めても構わないと思うだろう。コンシードすることは、コースの混雑を緩和し、プレーのスピードを上げるかもしれないが、典型的なアメリカ人ゴルファーの人生の喜びを奪うことにもなる」

過去100年の間に、コンシードを容認することに対する姿勢は軟化してきました。その最も顕著な例として、1969年のライダーカップ※2は、ジャック・ニクラウスがトニー・ジャックリンの2フィートのパットをコンシードし、大会史上初の引き分けという劇的な幕切れとなりました。また、ラウンドの序盤で相手にパットを譲り、試合終了間際に同じような距離のパットを打たせるなど、駆け引きの一種としてコンシードを使う人もいます。

 

※1バーナード・ダーウィン(Bernard Darwin)は、あの英国の博物学者チャールズ・ダーウィンの孫で、ゴルフ作家であり、トップアマチュアゴルファーでした。世界ゴルフ殿堂入りしています

※2ロイヤル・バークデールで行われた1969 年のライダーカップは、イーブンで迎えた最終ホール、パー5のフィニッシュホールでは、トニー・ジャクリンとジャック・ニクラウスがグリーンに2オンし、ニクラウスのイーグルパットは5フィートオーバー。ジャクリンはカップに2フィート届きませんでした。ニクラウスはバーディパットを沈めると、8,000人の観衆の前でジャクリンのマーカーを拾い、ジャクリンにタイに並ぶパットを許した(コンシードした)わけです。規則でトロフィーは米国が保持しましたが、試合後にニクラウスは「(あなたが)あのパットを外すなんて考えられない」とジャクリンに語ったそうです。

出典:https://www.usga.org/content/usga/home-page/articles/2023/07/a-history-of-conceding-putts.html?fbclid=IwAR01gMnPACePT2_NHO4xTuDdlno2QYUQL51O4YdQyk1cOLmj0NFd332rOOY

 

参考+JGAゴルフルールコラム(8):コンシード

2009/01/06

マッチプレーでは、相手の球が止まっていれば、いつでも相手の次のストロークをコンシードすることができます。

相手の次のストロークをコンシードした場合、相手の球は次のストロークでホールに入ったものとして扱われます。

一度出されたコンシードは辞退することも、取り下げることもできません。

このコンシードについて事例を挙げて考えてみましょう。

AさんとBさんのマッチプレーで、パー3のホールで両者ともパッティンググリーンに1オンし、Aさんの球はホールから5mBさんの球はホールから40cmのところにありました。AさんはBさんに「次のストロークをコンシードするよ」と言いました。この時点でBさんのこのホールのスコアは2打と確定します。しかし、Bさんが、コンシードされた球をパットした場合、どうなるでしょうか。

上述したとおり、一度出されたコンシードは辞退することはできず、もしBがそのパットを外したとしても、Bのそのホールのスコアが2打であるという事実に変わりはありません。

また、「コンシードが出された後に行なったBのストロークは練習ストロークではないか?」という質問を多く受けますが、規則7-2では「ホールの結果は決定しているのにそのホールのプレーを続けても、そのストロークは練習ストロークではない。」と規定されているので、練習ストロークを行ったことにはならず、罰はありません。

コンシードは次のストロークに限らず、マッチや、ホールをコンシードすることができます。相手にコンシードを出すときは、紛議が起こらないよう、コンシードを出すという意思を明確に伝えるようにしましょう。

なお、ストロークプレーではコンシードを出すという規則はなく、短いパットなどに「OKですよ」と言ってホールアウトせずに次のティーショットを行なった場合はホールアウトの不履行で競技失格となってしまいます(規則3-2)

(財団法人日本ゴルフ協会ホームページより)