
CAP:超矮性バミューダグラスの生育が困難な状況では、ゾイシアグラスやシーショアパスパルムなどの品種が、温暖な季節のパッティンググリーンに適した代替品種となります。日陰の環境に設置されたこのゾイシアグラスのグリーンは、その好例です
日本のゴルフ界において、近年の地球温暖化や猛暑に対する喫緊の対策として、夏場の暑さに強い「超矮性(ウルトラドワーフ)バミューダグラス(以下、UDB)」への芝種転換に関心が集まっています。グリーンキーパーの目下の悩みの一つはこの芝種問題です。
かつてのベントグラスが維持困難になる中、UDBは一つの強力な救世主として導入が進んできましたが、米国においては、UDB一極集中から一歩進み、日本原産でありながら改良が進んでいる「ゾイシアグラス(コウライシバ・マニラグラス等の改良種)」のポテンシャルに改めてスポットライトが当てられています。
米国ゴルフ協会(USGA)の東部地域農学者であるミッチ・ライニンガー(Mitch Leininger)氏が発表した最新リポート『パッティンググリーンにゾイシアグラスまたはシーショアパスパルムを使用する(原題:Using Zoysiagrass or Seashore Paspalum on Putting Greens)』をもとに、UDBとの比較を交えながら、日本のゴルファーやコース選びのヒントとなる最前線をお届けします。
- なぜ今、米国で「UDB一強」の見直しが進んでいるのか?
米国南部や気候移行帯(トランジションゾーン)において、夏季の過酷な暑さや乾燥を乗り切るためのスタンダードとして定着してきたUDBですが、実際の現場運用ではいくつかの限界や課題が表面化しています。
- 日陰や樹木との相性の悪さ:UDBは十分な日光を好むため、名門コースに多い「巨木に囲まれたホール」や「日陰の多い環境」では芝が薄くなりやすい。
- 冬場・移行期のストレス:寒暖差の激しい時期や冬季の低温ストレスに弱く、芝の健康状態を保つために多大な労力がかかる。
- 高水準な維持コスト:旺盛な成長力を制御するため、高頻度の芝刈りや大量の窒素肥料、緻密な水分管理が常時必要とされる。
こうした背景から、すべてのコースにとってUDBが万能の選択肢とは限らないことが明白になってきています。グリーンキーパーや支配人や経営者間では、環境変化やコスト高騰、労働力不足から、「それぞれの立地環境に真に適合する代替芝」を探求する動きが現実的な課題として議論されています。その中で、UDBの弱点を補う切り札として急浮上しているのが、他ならぬ日本芝、ゾイシアグラスです。
- なぜゾイシアグラスが選ばれるのか
リポートでは、UDBグリーンと比較した際のゾイシアグラス(「Lazer」「Prizm」「Diamond」などの最新品種)の明確なアドバンテージと芝種転換が分析されています。
① 圧倒的な「耐陰性」と「耐寒性」
- UDBの弱点を克服:ゾイシアグラスは、UDBよりもはるかに優れた耐陰性を発揮します。研究データによれば、特定のゾイシア品種(「Lazer」など)は、UDB(ティフイーグル等)よりも大幅に低い光量下であっても、許容範囲内の高品質な芝質を維持できることが実証されています。
- 移行気候帯への適応力:内陸部や気候の移行帯において、冬場の低温ストレスに対する耐性がUDBよりも高く、年間を通じて安定したコンディションを支えます。
② 環境負荷と管理コストの抑制(低肥料化)
- 窒素要求量の違い:UDBの年間窒素施肥量が一般的に1,000平方フィートあたり4.0〜6.5ポンドを必要とするのに対し、定着したゾイシアグラスのグリーンは2〜4ポンド程度で良好な状態を維持できることが多いと報告されています。
- 持続可能なクラブ経営:必要な肥料や労力が少なくて済む特性は、昨今の資材高騰や深刻な人手不足にあえぐゴルフ場経営において、極めて大きなメリットとなります。
③ 「硬く直立した葉」がもたらす上質なボールの転がり
- 密度が高く直立して生育するゾイシアグラスは、しっかりとした高品質のパッティング面を作ります。
- 「ゾイシア=遅い」は過去の誤解:技術革新による高速グリーンの実現
かつて日本のゴルファーやキーパーの間でも、「コウライシバ(ゾイシア)は葉が硬く、滑らかな高速グリーンを作るのが難しい」という固定観念がありました。しかし、近年の大学研究や育種テクノロジーの進歩によって、この常識は完全に覆されつつあります。
最新の栽培品種(「Lazer」「M85」「Prizm」「Trinity」など)を用いた研究では、生育期間中を通じて10フィートを超えるボールの転がり距離を安定して記録しており、特に「Lazer」においては11フィートを超える最高水準のスピードを生み出すことが確認されています。
ただし、これほどのトーナメント水準のスピードをゾイシアで実現するためには、以下のような専用の管理ノウハウが求められます。
- 機器の精密なメンテナンス:硬い葉冠をきれいに刈り込むため、切れ味の優れたリールやベッドナイフ、頻繁なリリーフグラインディング(刃の研磨)、適切なダウンプレッシャーの調整が不可欠です。
- 表面管理の工夫:低い刈り高を維持しつつ、バーチカルカットや軽いグルーミング、サッチ管理を組み合わせることで、スピードと健康な芝生のバランスを保ちます。
- 導入にあたっての注意点:UDBとは異なる「管理の哲学」
米国の専門家は、ゾイシアグラスを「UDBの単純な代用品」として扱ってはならないと強く警鐘を鳴らしています。それぞれの芝の生態に応じた専用のプログラムを構築することが成功の絶対条件です。
- 回復力の違いに注意:ゾイシアグラスは横方向への成長速度がUDBに比べて緩やかです。そのため、エアレーションや機械的損傷、病気、あるいは夏場の踏圧からの回復には、UDBよりも時間がかかります。
- 定着におけるコストと戦略:スプリグ(苗)からの生育が遅いため、プロジェクトの初期段階で確実な結果を求める場合、費用はかかりますがソッド(張芝)の利用が魅力的な選択肢となります。
- 病害管理(ラージパッチ等):過湿や不十分な排水環境下では「ラージパッチ」などの病害リスクが高まります。ゾイシアはダメージを受けた際の自然回復がUDBよりも遅いため、水やりや地表・地下排水の管理をよりシビアに行う必要があります。
5.これからのゴルフ場選びの新基準
今回のUSGAリポートが示す最大の示唆は、「すべてのコースが単一の流行の芝種に飛びつくべきではなく、立地環境に応じた適材適所の選択こそが本質である」という点です。
日本国内においても、猛暑対策としてUDBへの全面張替えを行うゴルフ場が増えていますが、すべてのホールやすべてのコース形態にそれが最適とは限りません。
- 伝統的な林間コースで「樹木の陰が多く、日照条件が厳しい」レイアウト
- 冬場の寒風や寒暖差が激しい「寒冷地・移行帯に近い」地域
- コース維持費の最適化と「持続可能な環境経営」を重視するクラブ
こうした条件を持つゴルフ場において、耐陰性・耐寒性に優れ、かつ近年の品種改良で驚異的な高速化・高密度化を遂げたゾイシアグラス(日本芝系統)のポテンシャルは、日本のゴルファーにとっても見逃せない大きな魅力と評価されています。
「どの芝種を採用し、どのように管理しているか」――それは単なるグラウンドキーピングの話題にとどまりません。将来にわたって美しい景観とタフで上質なプレー環境(グリーンスピードとコンディション)を維持し続けることができるかを見極める、ゴルフ会員権選びやクラブの資産価値を測るための極めて知的な物差しと言えるでしょう。
【記事出典】 USGA Green Section Record(2026年10月3日掲載) ミッチ・ライニンガー(東部地域 農学者) 「パッティンググリーンにゾイシアグラスまたはシーショアパスパルムを使用する」 (原題:Using Zoysiagrass or Seashore Paspalum on Putting Greens – Mitch Leininger, Agronomist, East Region)
